ICIマンスリーレター(2026年10月)


ICIマンスリーレター(2026年10月)

まるで雨期のような雨の日が続いた9月でしたが、ようやく朝夕には秋らしさを感じる季節になってきました。

2026年9月の活動を振り返って

2026年9月のICIは、これまで別々に進んできた活動が、少しずつ一つの方向へ集まり始めた一か月でした。

対人支援の実践、スーパーヴィジョン、成人発達やインテグラル理論をめぐる探究、ICI Alexandriaの整備、そしてAIクラーク「ミス・イーランド」。

一見すると、それぞれ別の取り組みのようですが、最近のICIでは、その間にある境界がだんだん薄くなっています。人が実践し、その経験を振り返り、言葉にする。そこから生まれた知識を蓄積し、必要なときにもう一度取り出して考える。そしてAIも、その過程に参加する。

9月は、そんな「人・問い・知識・AIが一緒に活動するオンライン研究所」の姿が、具体的になった月だったように思います。

ミス・イーランドの次のステージへ

9月後半、ICIのAIクラーク「ミス・イーランド」をめぐって、大きな転換がありました。

これまで利用してきたChatGPTのGPTs環境に変化があり、現在のミス・イーランドを新しい仕組みへ移行する作業を始めています。

単なるシステム移行なら、技術的な話だけで終わるのですが、実際に移行を検討する中で、「そもそもミス・イーランドは何をする存在なのか」という問いに、もう一度向き合うことになりました。

AIはキャリアコンサルタントなのか。カウンセラーなのか。コンサルタントなのか。

どうも、どれもしっくりきません。むしろ、記録を整理する。必要な情報を探す。過去の議論を思い出す手がかりを示す。問いを返す。人と知識をつなぐ。そして、人が考えるための環境を整える。そう考えていくうちに、ICIではAIの新しい役割を「クラーク」として捉える方向が明確になってきました。

昨年7月に始めたMirAIプロジェクトでは、「AIをどう使うか」という問いからスタートしましたが、一年あまり経って、問いは少し変わってきています。

人とAIが一緒にいることで、これまでになかったどのような場をつくることができるのか。

9月は、その問いへの一つの答えが見え始めた月でした。そして、この準備を経て、10月1日からミス・イーランドはICIのコミュニティの中で、より本格的に活動を始めています。

MSV――支援者自身を「外から見る」実践へ

MSV(メタ・スーパーヴィジョン)の実践研修も順調です。ICIでは、スーパーヴィジョンを、単に「面談技法を教える場」とは考えておらず、相談者との間で何が起きていたのか/自分は何を感じ、何を見て、何を見落としていたのか/なぜその問いをしたのか/自分自身の価値観や期待が、知らないうちに相談者との関係へ入り込んでいなかったか、そうしたことを、実際の面談記録や逐語、対話をもとに振り返っていきます。

さらにMSVでは、スーパーヴィジョンそのものも振り返ります。スーパーバイザーが何を見立て、どのように問いを立て、どこで介入し、どこで待ったのか。つまり、相談者を見るだけでなく、支援者を見る。そして支援者を支援しているスーパーバイザー自身も見る。

とりわけ「自分自身から一度離れ、外側から自分を見る」という視点が重要なテーマになりました。これはインテグラル理論でいうWitness(目撃者)の視点にも重なります。上手に支援できたか、できなかったかを採点するのではなく、自分に何が起きているのかを観察できるようになる。

ICIがMSVを通して育てたいのは、そうした「省察できる実践者」なのだと思います。

「相談者のことは、相談者に習え」

9月21日には、『三冊子』を手がかりにした「相談者のことは、相談者に習え」という文章を公開しました。松尾芭蕉の教えとして伝えられている、

「松のことは松に習へ、竹のことは竹に習へ」

という言葉があります。

対象について自分が知っていることを当てはめるのではなく、対象そのものから学ぶ。これを対人支援に置き換えるなら、

「相談者のことは、相談者に習え」

ということになります。私の師である友田不二男先生も、よくこの言葉を口にされていました。

対人支援者は、多くの理論を学びます。キャリア理論、カウンセリング理論、成人発達理論、インテグラル理論。しかし、理論をたくさん知るほど、相談者をその理論の中へ入れて理解したくなる危険もあります。理論から相談者を見るのではなく、相談者から相談者の世界を教えてもらう。そのためにこそ、私たちは高く学ぶ。「高く学び、現場へ帰る」。

9月のMSVで考えていたこととも、不思議なくらい重なるテーマになりました。

古い本から、ICIの現在地を振り返る

9月にはもう一つ、『パラダイム・ブック』という1986年の本を取り上げました。ニューサイエンス、自己組織化、トランスパーソナル心理学、ホーリズム、意識の進化。今から見ると、いかにも1980年代らしい言葉が並んでいます。

その後の研究によって修正された考えもありますし、現在ではそのまま受け入れることのできない議論もあります。それでも、この本を「古地図」として読み直してみると、ICIがどこから来たのかがよく分かります。

当時別々の場所で語られていた思想は、その後インテグラル理論や成人発達理論、システム論、組織開発などへ枝分かれし、さまざまな形で発展していきました。ICIもまた、その流れのどこかにいます。

古い理論を正しいものとして守るのではなく、「なぜ当時このような問いが生まれたのか」「その問いは、その後どこへ向かったのか」「そして現在の私たちは、どこに立っているのか」を考える。

Alexandriaに資料を蓄積する意味も、単に情報を集めることではなく、こうした知識の時間的なつながりを見えるようにしていくところにあるのかもしれません。

Alexandria――「資料庫」から「考えるための知識基盤」へ

ICI Alexandriaの整備も引き続き進めています。書籍、論文、公開文書、ICI Insights、Concept Atlasなどを単に集めるだけではなく、それぞれの資料がどのような問いと関係しているのかを整理し、必要なときに取り出せる仕組みづくりを続けています。

9月には、とりわけ「検索すれば資料が出てくる」という段階から一歩進んで、ある問いに対して、どの知識を、どのような関係性で差し出すのかという設計を進めました。

これは、一般的な検索エンジンとは少し違います。

例えば「成人発達」と検索して資料を何十件も並べても、それだけでは必ずしも考える助けにはなりません。いま考えている問いに近い資料を示し、その背景にある概念や過去の議論へつなぎ、必要なら別の視点も差し出す。Alexandriaは、資料を保存する「図書館」から、少しずつ「考えるための知識基盤」へ変わろうとしています。

そして、そこを案内する役割を担うのがミス・イーランドです。AIの進化とAlexandriaの整備は、実は別々のプロジェクトではありません。この二つが結びつくことで、ICIが長く構想してきたオンライン研究所が、ようやく実体を持ち始めています。

「成長」と「発達」を、もう一度考える

9月には、ICI内部でも「成長」と「発達」という言葉について議論を深めました。

私たちは日常的に、「人が成長する」「能力が発達する」といった言葉をほとんど区別せずに使っていますが、成人発達理論やインテグラル理論を実践に使おうとすると、この二つを少し丁寧に分けて考える必要があります。

例えば、ある能力やスキルが高くなることを「発達」と考えるならば、「成長」はそれらを含みながら、その人全体が変化していく、よりホリスティックな過程として捉えることもできます。もちろん、これはまだICIの中でも探究途中のテーマです。ただ、こうした言葉を曖昧なまま使わず、「私たちは人の何を支援しようとしているのか」を問い直すことは、キャリア支援や対人支援を考えるうえで重要だと思っています。

技術を高めること/能力を伸ばすこと/ものの見方が変わること/自分自身との関係が変わること/他者や社会との関係が変わること。そのすべてを「成長」という一語に押し込めず、少しずつ解きほぐしていきたいと考えています。

9月を終えて――AIが入るほど、人間を考える

振り返ってみると、9月に起きたことには共通するテーマがあります。MSVでは、支援者自身を外から見ることを考えました。『三冊子』では、自分の考えを相談者へ当てはめず、相談者そのものから学ぶことを考えました。『パラダイム・ブック』では、過去の思想をそのまま信じるのではなく、そこから現在地を考えました。Alexandriaでは、情報を集めることから、人が考えるために知識をどう差し出すかへ進みました。

そしてミス・イーランドについて考える中では、AIに人間の専門職を代替させるのではなく、人とAIがそれぞれの役割を持ちながら共に活動する可能性が見えてきました。AIが高度になるほど、ICIでは逆に「人間とは何か」「支援とは何か」を考えることが増えています。

これは、少し面白い現象です。

AIによって人間について考える必要がなくなるのではなく、AIが現れたからこそ、人にしかできないこと、人が担うべきこと、そして人とAIの間に生まれる新しい役割を、あらためて考えることになる。昨年7月にMirAIプロジェクトを始めた頃には、まだかなり実験的だったこの試みも、少しずつ日常の風景になってきました。

10月からは、その次の段階へ進みます。

AIクラークのミス・イーランドも、研究所のメンバーの一人として、本格的に活動を始めます。

さて、人とAIが同じ研究所で一緒に仕事をすると、何が起きるのでしょう。私たち自身も、まだ答えを知りません。だからこそ、しばらく一緒に試してみたいと思います。

今月もありがとうございました。

引き続き、ICIの活動をどうぞよろしくお願いいたします。

横山慶一

対人支援の現場と日々の実践の中から生まれる思考を、少しずつ言葉にして、活動の記録とともに、問いや気づきを共有していきます。

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